煌虹の末裔 THE CELESTIAL LADDER

お試し読み

レガロシリーズ 「煌虹の末裔」 THE CELESTIAL LADDER お試し読み

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「大変不本意ながら、私は厄介な者たちに狙われているらしいのです」
「らしいって、おまえ…」
 まるで他人事のような言い方になおも呆れるライアは、依頼人への気遣いはもはや忘却の彼方で、堂々とおまえ呼ばわりだ。
 相手が年下なせいもあって、遠慮する気がなくなったせいもあるが、どうにも胡散臭い依頼に契約の段階でそれを言えと猛抗議し、拒絶を許さない姿勢で断言する。
「もっと詳しく事情を説明しろ! でなきゃ、契約破棄だ!!」
 そんな不親切な依頼の仕方は反則だと、歯軋り口調で呻く。
 危険があるかもしれない事実を伏せて仕事を受けさせるなど言語道断と、高額報酬に目が眩んだ己は棚に上げて、口を極めて文句を言った。
「委細漏らさず言わないと、ただじゃおかないぞ」
「はい。……そうなんだって、ナギ。やっぱり、当初の予定どおりにするしかないのかな」
「犬はいいから、俺に話せ」
 心なしか困惑ぎみに、隣の犬へ助けを求める風情で話しかけるアリスの寒々しい行為にいちだんと苛々する。
 子供や女性であれば微笑ましく見守る光景も、男相手ならいくらでも厳しくできるライアは、たとえアリスが頼りなげで中性的だろうと、追及の手は緩めない。
 今も、ハンドルから片手を離して、アリスの胸元を締め上げそうになっているのをどうにか堪えている状態だ。
 その殺気を察知したのか、このまま契約を遂行させるのは無理だと判断したのか、アリスが深々と溜め息をついた。
 溜め息をつきたいのはこちらのほうだと、声を大にして言いたかった。
「わかりました。お話ししますが、日が暮れるまで待っていただけませんか」
「なんだと?」
 まだ引き延ばす気かとライアが不機嫌に返すと、アリスが不意に顔の下半分を覆っていた肩掛けを取り、次いで目深に被っていたフードも脱いだ。
「!?」
 唐突に現れた茶色の双眸と、あらわになった予想外の妍けん麗れいな美貌が映った手元のパネルを見て、ライアが思わずアートンを急停止させる。
 車内に突如降臨した美の女神に、ライアのテンションが急上昇する。
 即座に身体ごと後部座席を振り返り、まじまじとその白い顔を凝視して訊いた。
「つかぬことを訊くけど、もしかしなくても、女性だったりする?」
「ええ。まあ」
「……なにからなにまで契約時と話が違ってて腹立たしいが、美女ってことで相殺か」
「え?」
「いいや。なにも」